農業と植物科学

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12/22 ネイチャーと植物2019

 ネイチャーに掲載されている植物関連(興味のあるもの)の論文・記事を集めてみた。

 

①切断を必要としないゲノム編集法の拡張

Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA

doi: 10.1038/s41586-019-1711-4

感想:オフターゲット効果が少なく、正確な編集が行える凄い。CRISPR/Cas9に比べると少し複雑になるが、ゲノム編集の発展には感心する。

参考:プライムエディティングにつて

https://www.gizmodo.jp/2019/11/prime-editing.html

 

 ②1000種の植物のトランスクリプトームと緑色植物の系統ゲノミクス
One thousand plant transcriptomes and the phylogenomics of green plants

doi: 10.1038/s41586-019-1693-2

 

代謝と遺伝子を結び付ける乳酸

Histone lactylation links metabolism and gene regulation

doi: 10.1038/d41586-019-03122-1

感想: ヒストンラクチル化が細胞内代謝状態とエピジェネ状態を結ぶ

関連:エピジェネティクス:新規なヒストン修飾

doi: 10.1038/s41586-019-1678-1

 

④世界の食糧システムには食品ロスなどさまざまな問題があり、こうした隠れたコストは12兆ドルにも上るため、緊急に対策を講じる必要がある。
Counting the hidden $12-trillion cost of a broken food system

doi: 10.1038/d41586-019-03117-y

 

⑤イネいもち病菌の膨圧を原動力とする植物感染はセンサーキナーゼの1つによって制御される
A sensor kinase controls turgor-driven plant infection by the rice blast fungus
doi: 10.1038/s41586-019-1637-x

 

⑥バナナを病原糸状菌TR4から守ろうと、CRISPR技術を利用して防御能を高めようとする試みが。
CRISPR might be the banana’s only hope against a deadly fungus
doi: 10.1038/d41586-019-02770-7

感想:バナナがTR4によって危機に瀕している。TR4は殺菌剤が効かない、また流通しているキャベンディッシュという品種は、不稔性であるため育種による菌耐性を獲得できる可能性が低い。そこでゲノム編集技術による耐病性獲得の研究が進められている。例えば、機能していない抵抗性遺伝子を発現させるようにする、small RNAを利用したサイレンシングなど。

バナナが食べられなくなるのは嫌だな。

 

⑦現在および将来の気候においてシロイヌナズナのゲノムが受ける自然選択
Natural selection on the Arabidopsis thaliana genome in present and future climates
doi: 10.1038/s41586-019-1520-9

 

IPCCが、地球温暖化を抑えるためには、世界の土地利用、農業、食生活を変える必要があるとの特別報告書を。
Eat less meat: UN climate-change report calls for change to human diet
 doi: 10.1038/d41586-019-02409-7

感想:今後は、世界の食生活を変えることで利益が生み出せるかも。

 

ヘテロ型の受容体複合体によるRALFペプチドの認識機構
Mechanisms of RALF peptide perception by a heterotypic receptor complex
doi: 10.1038/s41586-019-1409-7

感想:アブストだけだからよく分かんないんだよね。CrRLK1Lは植物の成長、環境への応答などに重要な調節因子で、RALFペプチドは植物の細胞伸長を制御してたりする。将来的には、これらの遺伝子を調節すれば野菜とか果実の大型化できるかも?

 

⑩カルモジュリン依存性カルシウムチャネルは病原体パターンと植物免疫を結び付ける
A calmodulin-gated calcium channel links pathogen patterns to plant immunity
doi: 10.1038/s41586-019-1413-y

 

⑪作物の多様性が国の食料生産を安定化させる
National food production stabilized by crop diversity
doi: 10.1038/s41586-019-1316-y

感想:気候変動などによって作物生産の安定性が脅かされている。作物の多様性と各国の収穫量の安定性との関係を調べた。その結果、作物の多様性が一時的な生産量の安定性に関わること、国内の生産量が大幅に減少する年の出現率が大幅に低下した。このレポートからは、作物の多様性が気候変動の影響を緩和する可能性を示唆した。

なんでも?遺伝的に多様性がある方がいいよね。

 

⑫中国全土でツマジロクサヨトウの幼虫による食害が広がり、天敵探しなど、科学界が対策に大わらわ。
Caterpillar’s devastating march across China spurs hunt for native predator
doi: 10.1038/d41586-019-01867-3

 

感想:分布拡大が凄い。2016年にアフリカのナイジェリアで初めて発生が確認されて、2018年にインド、2019年タイとミャンマー、中国全土に広がりつつある。殺虫剤が効かないようで、殺虫剤感受性が調べられている。なんで急に増えたんだろ?やっぱり薬剤耐性遺伝子を手に入れたからかな?

関連:新たな恐怖“ツマジロクサヨトウ”

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64884?page=2

 

⑬頂端の低酸素ニッチはシュート分裂組織の活性を調節する
An apical hypoxic niche sets the pace of shoot meristem activity
doi: 10.1038/s41586-019-1203-6

 感想:動物の幹細胞と低酸素の関係は明らかになっているが、植物ではあまり聞かなかったな?

 

シロイヌナズナのFLL2がポリアデニル化複合体の液–液相分離を促進する
Arabidopsis FLL2 promotes liquid–liquid phase separation of polyadenylation complexes
doi: 10.1038/s41586-019-1165-8

感想:液–液相分離‥異なる組成の水溶液同士が分離して液滴を形成する現象を利用した区画化で膜に頼らない新しいタイプの区画化方法。この研究ではシロイヌナズナにおいて、FLL2タンパク質が、mRNAプロセシング因子FCAの相分離の挙動を正に調節していることを示してる。あんまり液–液相分離について考えたことなかったな今後が楽しみな感じ。

関連:細胞内の相分離(本)

https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758125208/

 

⑮TMK1を介したオーキシンシグナル伝達は頂端フックでの偏差成長を調節する
TMK1-mediated auxin signalling regulates differential growth of the apical hook
doi: 10.1038/s41586-019-1069-7

 

 ⑯抗生物質が果樹園へ
Antibiotics set to flood Florida’s troubled orange orchards
 doi: 10.1038/d41586-019-00878-4

感想:アメリカでは、カンキツグリーニング病の蔓延が懸念されている。そこでThe US Environmental Protection Agency (EPA)は、栽培者がストレプトマイシンとオキシテトラサイクリンを通常の処理として使用、年に数回木にスプレーすることを許可した。しかし、薬剤使用による健康や環境の面で見解が分かれている。アメリカの柑橘産業はどうなるのか?

 

 ⑰植物が太くなる機構が明らかに
Plant-thickening mechanisms revealed
doi: 10.1038/d41586-018-07880-2

感想:根の側方成長のメカニズムが解明された。今後は、サツマイモなど側方成長により肥大化する根菜作物において、肥大化を自由自在にコントロールする技術の開発されるかも。肥大化した根菜類は加工しやすそう。

関連:http://www.naist.jp/pressrelease/2019/01/005500.html

 

⑱雄性発現するイネの胚形成開始因子が種子を介した無性繁殖に転換させる
A male-expressed rice embryogenic trigger redirected for asexual propagation through seeds
 doi: 10.1038/s41586-018-0785-8

感想:AP2ってAGの発現を抑制するとか知られているけど、あまり実態はわかんなかったかも。AP2ファミリーのBBM1の過剰発現によって単為生殖の発生を誘導するのか凄いな。他の植物で操作したらどうなるのだろうか。

 

 おわり